360°障害物回避技術をもとにした自律飛行性能とIP55の防塵・防水性能を持つ産業用ドローン「Skydio X10」。雪や低温といった厳しい環境下でもその真価を発揮しますが、寒冷地特有のリスクを理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。
本記事では、docomo skyチームがこれまで実体験から得られた知見やSkydio社の公式マニュアルなどに基づき、冬のフライトにおける留意事項を紹介します。
1. 動作環境温度と「着氷」への警戒
Skydio X10の動作環境温度は -20°C〜45°C です。この範囲内であれば飛行可能ですが、最も警戒すべきは「着氷(アイシング)」です。
- ・着氷条件下での飛行は非推奨: 気温が0°C付近またはそれ以下で、霧や降雪など目に見える水分がある場合、プロペラや機体に着氷が発生するリスクがあります。Skydioは着氷条件下での飛行をサポートしていません。
- ・リスク: プロペラへの少量の氷の付着でも、揚力の大幅な減少や制御不能、異常振動を引き起こし、墜落につながる恐れがあります。
- ・対策: 飛行前後はプロペラの縁(リーディングエッジ)を入念に点検し、霜や氷が付着している場合は必ず除去してから飛行させてください。
特に山間部の飛行では離陸時に晴天であっても、数分後には暴風・降雪となることがあります(写真1) 。天候の急変を想定した飛行計画、急変時の緊急着陸先など十分なリスクアセスメントを計画したうえで飛行してください。

写真1: 離陸時晴天であったが、離陸後数分で吹雪となった飛行現場
2. バッテリーの保温と「自己発熱機能」の活用
寒冷地ではバッテリーの性能が低下し、飛行時間が短くなる傾向があります。Skydio X10のバッテリーは、0°Cを下回ると離陸がロックされますが、これを解消するための「自己発熱機能」が搭載されています。
自己発熱機能の使い方
- ・手動開始: ドローンに装着する前に、バッテリーの電源ボタンを3回押します。
- ・自動開始: 氷点下のバッテリーを機体に挿入して電源を入れると、離陸がロックされ自動的に予熱が開始されます。
- ・ステータス確認: 加温中はライトがオレンジ色に点灯します。
運用上の注意
- ・充電残量: 自己発熱機能を作動させるには、バッテリー残量が30%以上ある必要があります。
- ・保管時の工夫: 飛行直前まで、バッテリーを一定の温度が保たれた保温バッグや車内、ジャケットの内ポケットなどで温めておくことを強く推奨します。

※具体的な方法などはSkydio社のページを確認ください。
3. 雪上飛行における「ビジュアルナビゲーション」の注意点
Skydioの最大の特徴であるVisual SLAM(カメラによる自己位置推定)は、特徴のない風景が苦手です。一面が真っ白な雪原などは、ナビゲーションに支障をきたす可能性があります。
- ・特徴のない雪面: 起伏や影がなく、幅9m(30フィート)を超える滑らかな雪面の上空を飛行する際は、ビジュアルナビゲーションが機能しなくなる恐れがあるため、特に注意が必要です。
- ・障害物回避: 冬季は葉の落ちた木々が多くなります。直径1.27cm以下の細い枝や電線、つららなどは障害物として検知しにくい場合があるため、十分な距離を取ってください。
- ・GPSの確保: ビジュアルナビゲーションが不安定になった場合に備え、GPS信号が強い場所での運用を心がけてください。
4. 降雪時の設定変更と「障害物回避」の無効化
Skydio X10はIP55等級を有し、小雨や降雪の中でも飛行可能ですが、雨天と同様に降雪量によってはセンサーが雪を障害物と誤認する可能性があります。
- ・障害物回避の無効化: 降雪中などでは、必要に応じて「障害物回避機能」をOFF(無効)に設定することを推奨します。オペレーターの責任の下、障害物回避機能をオフとする状況では、計画している飛行が十分に安全なものか改めて再確認をしてください。
- ・着陸時の注意: 地面が新雪で柔らかい場合、着陸時に機体が埋没したり、センサーが地面を正しく認識できないことがあります。必ずランディングパッド(離着陸用マット)を使用し、雪を固めた上で離着陸を行ってください。
5. 送信機(コントローラー)の寒冷地対策
機体だけでなく、操縦に使用する「Skydio X10 Controller」も寒さ対策が必須です。
- ・動作環境: コントローラーの動作環境温度も機体と同じく -20°C〜45°C です。IP54の防塵・防滴性能を持っておりますが十分な温度管理が必要です。
- ・バッテリー急減リスク: リチウムイオンバッテリーの特性上、極低温下では電圧が急激に低下し、残量表示があっても突然電源が落ちるリスクがあります。
- ・保温の工夫: 待機中は上着の内側に入れて体温で温める、または市販のプロポカバー(送信機カバー)やカイロを使用して、バッテリー部分やコントローラーを冷やさないようにしてください。
- ・画面の誤作動対策: 降雪時に画面が濡れると、タッチパネルが反応しづらくなったり、誤作動を起こす可能性があります。そのため飛行中は「タッチスクリーンロック機能」などを活用し、物理ボタンでの操作をメインに切り替えることなども検討してください。この誤作動対策は雨の場合でも同様に必要です。設定方法は、参考資料 寒い季節にSkydio X10を飛ばす方法 – Skydioを”ステップ5 – コントローラーのタッチスクリーンをロックします”を参照ください。
6. 飛行後のケアとメンテナンス
寒冷地での飛行後は、機体のケアが寿命を左右します。
- ・乾燥させる: 飛行後は機体に付着した水分を拭き取り、すべてのポート(端子カバー)を開けた状態で、最低12時間は換気の良い場所で自然乾燥させてください。
- ・濡れたまま収納しない: 水分が残ったままケースに収納すると、湿気により内部基盤の腐食や故障の原因となります。
- ・急激な温度変化: 氷点下の屋外から急に暖かい室内に持ち込むと「結露」が発生し、カメラや内部回路を損傷する可能性があります。徐々に温度を慣らすなどの対策が有効です。
冬のフライト前確認ポイント例としては下記があげられます。
- ・[ ] プロペラに氷や霜が付着していないか?
- ・[ ] バッテリーは人肌程度に温まっているか?(冷えている場合は自己発熱機能を活用)
- ・[ ] バッテリー残量は十分か?(寒冷地では減りが早い)
- ・[ ] ドローンのすべてのゴムパッキンがしっかりと密閉されているか?
- ・[ ] 飛行エリアが一面真っ白(特徴点なし)ではないか?
- ・[ ] 特徴点がとりづらい場合、十分なGPSが取得できる環境か?
- ・[ ] 降雪がある場合、障害物回避設定を見直したか?
- ・[ ] ランディングパッドは用意したか?
Skydio X10は寒冷地でも高いパフォーマンスを発揮しますが、「着氷させない」「バッテリーを冷やさない」「雪面でのセンサー特性を理解する」ことが安全に運航するためにとても重要です。
参考資料:
※本記事は執筆時点のメーカー情報およびガイドラインに基づいています。最新のファームウェアやマニュアルについてはSkydio公式サイトをご確認ください。