Skydio Ascend 2025カンファレンスレポート第3回では、前回紹介したDFR(Drone as First responder)と並び、特に焦点が当てられていたUtility(ユーティリティ)分野について報告します。ここでいうユーティリティとは、電力、ガス、水道など、社会インフラを支える事業者の総称です。
本レポートでは、Keynoteに登壇したAEP Ohioの先進的な事例に加え、Ascend 2025で発表された画期的な新機能「Asset Based Inspection (ABI)」を中心に紹介します。
Keynoteで語られたユーティリティ業界が直面するインフラ点検の課題
社会や企業の運営に不可欠なインフラ業界(構造物、道路、電力供給網など)は、広大かつ複雑であり、その管理・維持には重大な課題が伴います。
まず、ダウンタイムの最小化が最重要課題です。「電力を維持すること(keeping the lights on)」の核心は、停電などの事故を未然に防ぎ、万一発生した場合は迅速に復旧させることにあります。
次に、従来のインフラ点検では、作業員が危険な高所や閉鎖空間、高圧電流が流れる場所に出向く必要があり、人命を危険に晒すリスクが常に存在していました。
また、広範囲に分散した対象物を点検するためには、オペレーターが現場へ移動し、ドローンを操縦して飛行させるプロセスが必要であり、点検効率の向上が求められています。この一連の計画、スケジュール調整、飛行に日数を要していたのが実情です。
さらに、点検が必要なアセットの位置情報や状態が完全にデジタル化されていない場合、効率的なミッション計画が困難になるという、データの非効率性も課題となっていました。
インフラへと進化するドローンへの期待
KeynoteでAdam氏が語ったように、ドローンは「単なるツール」の時代から進化し、社会の運営に不可欠な「クリティカルな物理インフラストラクチャ」そのものへと変貌しようとしています (Drones have been toys, then they became tools. Now the drones are becoming critical, physical infrastructure themselves.)。
引用 : Skydio Ascend 2025 keynote: R10, F10, Shadow and multi-drone ops revealed.
このようなインフラストラクチャへと進化するドローンに、ユーティリティ業界が期待するのは主に次の3点です。
1.自律運用による効率性の劇的向上:ドローンをインフラとして機能させる核となるのが、ドックと遠隔操作による完全な自律運用です。ドックベースのドローンは、従来のドローンと比較して4〜5倍多く飛行しており、これはドローン運用にかかる煩雑な調整作業などを取り除くことの具体的な効果として示されています。
2. 安全性と迅速性:ドローンを活用することで、人が危険を冒さずに建物の外壁や道路、橋などの状況を迅速に把握できます。これにより、安全性関連の状況改善が図られ、コスト回収も迅速に行われると見込まれています。
3.プラットフォームへの継続投資:ユーティリティ顧客の特殊なニーズに応えるため、技術提供側には、プラットフォームへの継続的な投資と改良を行うという姿勢を期待しています。
AEP Ohioの先進的な活用事例
AEP Ohioは、ドローン技術、特にドックドローンの採用において先駆的な役割を果たしています。Keynoteでは、同社のProject Manager PrincipalであるJake Reed氏が登壇し、ドローン活用による効果について語りました。
AEP Ohioは、停電が発生してから対応するリアクティブ(反応的)なアプローチから、トラブルを未然に防ぐプロアクティブ(予防的)な予知保全へと業務を変革しています。この取り組みの一環として、サブステーション(変電所)にドックステーションを設置しました。その結果、ドローンがすでに現場エリアに存在するため、トラブル発生時に数分以内に現場を視察することが可能となり、現場到着時間を大幅に短縮しています。
また、障害発生時には、オペレーターは本社などの遠隔地からボタン一つでドローンを展開・遠隔操縦できるようになりました。これらの施策により、AEP Ohioは過去1年間で約300件の停電事故が発生する前に特定し、修理することに成功しました。これは、ダウンタイムを減らし、より迅速に復旧するための「電力を維持する」取り組みとして、具体的な成果を上げています。
(注:AEP Ohioのドローン運用開始時の取材動画についても、ご興味があればご覧ください。)
デモでは、以下の2点が取り上げられました。
1.マルチドローンオペレーション:Keynote会場のオペレーターは、コロラド州の太陽光発電所、カリフォルニア州の変電所、テキサス州の配電点検など、国内の複数の場所で同時進行のドローンミッションを管理しました。
引用 : Skydio Ascend 2025 keynote: R10, F10, Shadow and multi-drone ops revealed.
2.緊急性の高いミッションへのABIによる即時対応:即時対応のデモンストレーションでは、オハイオ州の顧客担当からブレーカーG1392での瞬間的な動作増加に関する緊急連絡が入ったという想定で実演が始まりました。通常、このような広範囲にわたるミッションの計画、スケジュール調整、そしてドローンを飛行させるまでには数日を要します。しかし、Skydioのオペレーターは新機能である「Asset Based Inspection (ABI)」を活用し、「その日の午後に結果を提供できる」と顧客担当に自信を持って回答しました。
デモンストレーションでは、オハイオ州コロンバス近郊にある通電中の変電所から、AEP Ohio所有のドックを使用してドローンが離陸しました。これは、ABIによって事前に計画されたミッションであり、活線設備の上空を通過し、最初のウェイポイントへと向かう経路を正確に実行しました。このデモンストレーションは、ABIが従来の「数日」かかっていたプロセスを、「その日のうちに」明確にできることを示しました。
新機能:Asset Based Inspection (ABI) の紹介
Asset Based Inspection (ABI)は、AEP Ohioを含むユーティリティ企業からの要望を主要なフィードバックとして開発された機能です。
概要と自動化
ABIは、管理者が保有するすべてのアセット(資産)をデジタルツインとしてSkydio Cloudに取り込むことから始まります。
資産情報のインポート:ユーティリティ企業は、資産の位置情報や説明を含むリストを「システム・オブ・レコード」からSkydio Cloudに投入します。
ミッション計画の自動化:点検が必要なアセット(例:電柱)を検索するだけで、ABIがその点検対象物への最適な飛行経路を自動的に計画・実行します。これにより、オペレーターは手動でウェイポイントを設定する必要がなくなります。
ショットシートの割り当て:シンプルな上空からの撮影や、詳細な分析のための四分円キャプチャなど、事前に定義されたデータ取得方法「ショットシート」を割り当て、ミッションを数分で作成できます。
安全性の確保:ルート計画時には、あらかじめ作成された「ジオフェンス」(飛行禁止区域)が考慮され、例えば特定の事業所の上空を飛行しないよう自動的に回避されます。
引用 : Skydio Ascend 2025 keynote: R10, F10, Shadow and multi-drone ops revealed.
ABIが提供する価値:データのフィードバックループ
ABIの最大の強みは、資産管理におけるフィードバックループを作り出す点にあります。
デジタルツインの改善:ドローンから取得された飛行データは、アセットの正確な位置情報(しばしば不完全であったり、時間の経過とともに変更されたりする場合がある)を改善し、デジタルツインの精度を向上させるために利用されます。
リスク管理システムとの統合:飛行データが処理され、故障や異常などのインシデントが検出された場合、その情報がリスク管理システムにフィードバックされます。
自動ミッション生成:このフィードバックに基づき、リスク管理システムがさらなる自動化された点検ミッションを生成することができます。
引用 : Skydio Ascend 2025 keynote: R10, F10, Shadow and multi-drone ops revealed.
この概念は、電力業界にとどまらず、「物理的な対象物、建物、装置」の状態確認や健全性を維持する必要があるあらゆるインフラ領域に適用可能であり、安全かつ迅速、効率的なメンテナンスを可能にすると考えられています。
結びに
本レポートでご紹介したSkydio Ascend 2025での知見、特にAEP Ohioの先進的な活用事例や、新機能**「Asset Based Inspection (ABI)」が示すドローンの進化は、アメリカに限らず、日本を含むさまざまなインフラメンテナンス業界が直面する課題解決**においても大きな示唆を与えてくれます。
日本市場におけるSkydioとの共創
Skydioは、その革新的な自律飛行技術を武器に、元来B2C(コンスーマ)市場で注目を集めていましたが、2020年の日本市場から始まった点検市場への本格参入を機にビジネスを大きく拡大しました。
我々docomo skyチームは、日本展開当初からSkydioと連携を深めています。日本の法規制や独特なインフラ環境のニーズを現場からフィードバックし、Skydioの技術陣との対話を通じて、より安全で、実用的、かつ活用しやすいドローンソリューションの構築に取り組んでまいりました。
その成果として、2025年6月には独立行政法人水資源機構様との上空LTEとSkydio Dock for X10を組み合わせたレベル3.5飛行実証を実施するなど、難易度の高い環境下でのインフラ点検効率化への具体的な事例も生まれています。
今後も上空通信×ドローンの組合せで社会課題解決につながるサービスを提供してまいります。